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短歌 緑陰集

中学1回生 河田俊之

学徒勤労動員(どういん)の頃

十九年六月一日その日より学枚に行かず工場へ行く
ジユラルミンの熔銑(ゆ)を汲み鋳型に流し込む米四合の労働に堪ふ
めくるめく暑さと重さ 少年はつひにその身に大火傷(やけど)負ふ
「有為の子等潰すは国のためならず」軍と会社に校長告げき
「国のためだ頑張れるな」と憲兵の誘導に「辛し」一言答へき
憲兵の尋問受けし翌日より激しき下痢に襲はれ 行けず
校長の英断により動員先変りて無線機の工場に通ひぬく
動員先変らずあらばその秋の空襲に遭ひいかがありしか

心して吹け

遅夏やさるすべりつひに花見せず薄桃色の萩たわわなり
罵られ罵りかへすむなしさよ避けて黙(もだ)すもまたむなしかり
朝ごとにエスカレータを歩み登る老紳士今朝は運ばれてゐる
鍵下げし革のかばんの重たげに老紳士今朝も先を歩めり
老紳士いつもの時間に見当らぬ病を得しや職を辞せしや
ひさびさに老紳士我が前を行く夜半の雨は上がりてゐたり
老紳士今朝リハビリの杖持てり杖のさばきに慣れざるさまに
たたみたる杖をかばんに老紳士地下道を行くゆつくりと行く
くもり空にこぶしは白く浮き立てり心して吹け春北風よ
墓場まで金属泥棒(どろ)の来(きた)るとふこの世の未なりあの世も末か
墓参終へ線香皿も花立ても盗まれぬやう外す人あり
盗まれし金属やがて海渡り北京五輪の足しになるとか